INTERSECTIONS -case07- TANAKAYA Senbei Factory Shop × Yusuke Tanaka
“INTERSECTIONS edit by TAB Journal”とはTABがこれまでに関わらせて頂いた場所や空間で過ごしている方々に焦点をあて、インタビューしていくコーナーになります。
第7弾として2017年5月に完成した「田中屋せんべい総本家ファクトリーショップ」にお邪魔して田中屋せんべい総本家の六代目「田中裕介」さんにインタビューを行いました。田中屋せんべい総本家のことやファクトリーショップのこと、コロナ禍での対応や今後の展望についてお聞きしました。
TAB)田中屋せんべいについて教えてください。
田中)田中屋せんべいは創業安政6年(西暦1859年)で161年続いている煎餅屋です。私で6代目になります。現在の直営店は大垣市本町にある本店と21号線沿いにあるファクトリーショップの2店舗です。
TAB) お店の改装をする際に考えていたこと、要望はどんなものでしたか?
田中)実は2009年まで30年ほどこの場所でレストランや洋菓子もしていたんです。前店舗はそこに無理矢理せんべいの売り場やせんべいを焼く場所を作って、喫茶や洋菓子の要素が残っている状態でした。空間としてつぎはぎな印象がありましたので、それらを整理するのが目標でした。
↓改装前の現地調査の際の写真(2016年12月)
↓改装中の写真(2017年3月)
↓什器の配置の検討
↓内装完成写真
↓現在は予約販売のみで運営されています。
TAB)お店の改装後、お店を運営していく中で感じたことはありますか?
田中)ええ感じです(笑)改装前と比べると要らないものがそぎ落とされてシンプルになった印象です。せんべいを作る際に使用する道具や過去に作成した焼き印などが店内にディスプレイされていて歴史や手仕事を感じさせてくれる内装になったなぁと思っています。
機能としては、ガラスのショーケースはいらなくなってきたなと感じます。お客様がショーケースを見て、スタッフに「これください。」と伝えるのではなく、お客さんが自分で商品をもってレジに行くというスタイルがコロナ禍によってより進むとおもっています。あと、焼き場は空調や風の通り道など工夫してくれたけどまだ熱いですね。火を使っているのでしょうがないところはあるんですが、工事現場で最近よく見る扇風機が付いたウェアを来てもいいかもしれないとスタッフと話しています。
TAB)焼き印や「はそり」と呼ばれる桶、焼き型など3階の倉庫に入って探しましたね!訪れるお客様やスタッフの方の反応はありましたか?
田中)お客様はおしゃれだね~といってくれますよ。スタッフからは最高ですね~!みたいなのはないね。笑
TAB)以前お店にお伺いしたとき、女性のスタッフの方がお店の雰囲気に合うようにスタッフのエプロンを新調しました!と話してくれて嬉しくなりました。空間が意識を少し変えてくれたというか。あとは3階の休憩スペースや更衣室、打ち合わせスペースなども同時期に改装しました。田中社長が女性のスタッフの方が仕事終わりに浴衣に着替えて花火を見に行ってくれた。前はこういうことはなかったなぁ。というSNSの投稿を見てその時よかったなぁと感じました。
田中)そうやったね。スタッフは1日の中でこの場所にいる時間が長いので、少しでも環境を良くしたいなぁと。あとはTVや雑誌などいろいろなメディアに取り上げてもらいましたね。
↓3階の改装中の写真
↓3階休憩スペース
↓和室スペース
↓休憩スペースにある本棚
↓打ち合わせスペースにある本棚。様々なジャンルの本がびっしりと置いてある。
↓掲載された記事
TAB)お店のデザインをしている時や工事が進んでいく中で田中社長といろいろ打ち合わせさせていただいていたんですが、田中社長のデザインに対するご理解があり、こちらもいろいろと発見やアイデアを頂きました。ありがとうございます。社長がデザインを意識するようになったのはどんな経緯があったのでしょうか?
田中)2001年に田中屋せんべいに入社した時の初仕事が商品パンフレットを作り直す仕事でした。以前のパンフレットは予算がないからって全商品を一緒くたに撮影してあって、本当に見づらくてね。当時、高校の同級生でちょうどその年にIAMASを卒業したデザイナーの倉地くんに相談して一緒に作ることになりました。商品の情報や掲載する文章などを整理したり、焼き型のロゴをメインビジュアルに据えようとか、理念を考えたり、、、とすごい熱量で一ヶ月ほど毎日ワクワクしながら形にしました。
田中屋せんべいの味、パッケージ、店をこんな風にしていきたいって理想をパンフレットという紙媒体に落とし込みました。そのイメージに向かってクオリティを上げていく。それを毎年更新しながら先行するデザインに現実を近づけてく作業を繰り返してきました。それからだいぶ経って、なんとかそのイメージに見合うような商品、お店になって来れたかなと。あの時作ったイメージがブランドを引っ張っていってくれました。デザインに関しては倉地くんからかなり勉強させてもらいましたね。今ではずいぶん少なくなりましたけど、20年経った今でも二人三脚で田中屋せんべいのデザインしてますよ。
↓入社当時のパンフレット
↓2001年にデザインしなおしたパンフレット。表紙には現在のイメージである焼き型のロゴが使用された。
↓複雑に折られたパンフレットを開くとせんべい(原寸大)が一覧でわかる図鑑のようなつくり。
↓パンフレットを作る際に作ったサンプル。夜な夜なあーだこーだ話していたそうです。
↓現在のパンフレットの見開き。ビジュアルがとてもわかりやすく洗練されたイメージ。
TAB)ブランドがデザインによって成長していく理想的な関係のような気がしますね。お店のデザインをする際も焼き型のロゴがキーになりました。2001年に入社されてから、現在の体制になるまではどんな過程があったのでしょうか?
田中)2001年から2009年までの8年間で計画的にせんべい一本に絞るために不採算店を3店舗閉めました。この期間は暗黒時代で、、、会社としての規模を計画的に縮小していったのです。店舗を減らした分、せんべいの自社製造を増やして、全国の百貨店やイベントなどで商品を売るようにしました。2009年以降、体制を整えてからはせんべいに集中し商品開発、品質向上とせんべいの可能性を広げる活動に全力を注ぎました。それが今の商品群です。
恥ずかしながら、私が2001年に戻った当時はせんべいを自分たちで作らなくなっていました。田中屋せんべいで修行して独立した職人さんからほとんどのせんべいを買っていたんです。要は外注ですね。職人さんたちは60代の方が多く、年齢的にもあと数年で引退する時期でした。このままだと売るものがなくなるという危機感から、自社製造できる体制に変えていきました。まだその頃は洋菓子を中心に据えていて、せんべい屋の跡取りとして戻ってきたのにせんべい焼かずに洋菓子をつくるの??自分はなんで戻ってきたの??と思いましたよ。今振り返っても、あんな状況からよくここまで来れたなって自分でも驚きます。
↓みそせんべいをファクトリーショップで作る様子
↓焼き場の壁にはせんべいに刻印されるいろいろなデザインの焼印が掛けられている。
TAB)現在のコロナ禍でファクトリーショップは予約販売営業されていますが、他にもこの時期に会社として行った取組みはありますか?
田中)4月の岐阜県の非常事態宣言を受けてファクトリーショップは休業してその後は状況を見ながらの営業をしていました。コロナ期間中は工場の作業効率の検討や工場内の配置計画の検討、スタッフと一緒にDIYでビニールカーテンをつけたりと、通常時ではあまりできないことに時間をかけました。工場のスタッフもお店が閉まっていることで今までとは全く違ったアイデアをもとにした効率的な製造計画ができたように思います。
また、これまで手付かずだったせんべいの配合の再調製だったり、職人の技術習得、技術向上だったり、余裕のある時しかできないことをやっています。新商品の開発などにも注力でき、予定としては今年の11月に2つ新商品を出す予定でいます。まだまだ調整中ですが、、、
暗黒時代に思い切って縮小して経営的に身軽にしたことでコロナ禍でも被害は最小限に抑えられていると思います。
TAB)ファクトリーショップは縮小営業されていますが、お店としての今後の展開など考えていることはありますか?
田中)この場所の新しい使い方として、レンタルスペースや売り場シェアリングみたいにしてもいいのかなと思っています。無農薬野菜を作っている方がスポットで販売しに来てくれたり、手仕事のクラフトを展示をしたり。業種は違えど同じ志を持った人がここで何かやって、ついでにせんべいを買っていってくれるようなイメージです。地元の方々の田中屋せんべいのイメージは「固いみそせんべい」のイメージが強いとおもうので、地元の方々にも「新しい老舗」の田中屋せんべいに共感してもらって、もっと来てもらえるようにしていきたいです。
田中屋せんべい FACTORY SHOP (旧 バイパス店)
住所: 〒503-0008 岐阜県大垣市楽田町2ー76
電話:0584-75-1616
web : http://tanakaya-senbei.jp/
note : https://note.com/princeofsenbei
instagram : https://www.instagram.com/tanakaya_senbei_official/